目の痛みや鼻・喉の不調があり、体のだるさなども感じた場合、もしかするとシックハウス症候群かもしれません。シックハウス症候群とは単一の疾患ではなく、住環境に由来する健康障害の総称として使われています。
シックハウス症候群にはどのような症状があり、何が原因とされているのでしょうか。シックハウス症候群の症状や原因、対策について解説します。
シックハウス症候群とは?
シックハウス症候群とは、建物に使用された建材や内装材から発散される化学物質、またはカビやダニなどにより室内空気が汚染されて起こる健康障害の総称です。住環境に由来する健康被害として知られています。
シックハウス症候群の具体的な症状としては、以下のようなものが挙げられます。
■シックハウス症候群の症状
部位 | 症状 |
目 | 痛み、かゆみ、違和感、目やに、涙目 |
頭 | 頭痛、めまい |
鼻 | 刺激感、乾燥、鼻の奥の痛み、鼻水、くしゃみ |
喉・口 | 痛み、乾燥、せき |
皮膚 | じんましん、湿疹、紅斑(こうはん)、かさつき、乾燥 |
その他 | 吐き気、嘔吐、倦怠感、疲労感、息苦しさ |
ただし、これらの症状は個人差が大きく、同じ環境下にいてもほとんど症状が現れない人もいます。
シックハウス症候群の原因
シックハウス症候群の原因としてまず挙げられるのが、住宅の高気密化や高断熱化が進んだことによって起こりやすくなっている室内の空気汚染です。
室内の空気中には、建築材料などから発するさまざまな化学物質が存在します。また、湿度が高ければカビやダニ、細菌なども繁殖しやすくなります。加えて、居住者の喫煙による煙、整髪料や化粧品、石油ストーブ、ガスストーブの使用などによっても、空気汚染は進行すると考えられます。
中でも、シックハウス症候群の主要な発症原因と考えられているのが、化学物質による空気汚染です。例えば、建材や家具に使用されている接着剤や塗料には、有機溶剤が使用されていることがあります。また、木材をシロアリなどから守る防腐剤は、揮発性有機化合物を発散させる可能性があります。
建築基準法改正により原因物質の使用を規制
シックハウス症候群対策のため、2003年7月には建築基準法が改正。シックハウス症候群の原因物質と考えられる材料の使用が規制されるようになりました。
具体的には、刺激臭があり毒性が強いとされるホルムアルデヒドを発生させる建材は、一定面積以上の使用が制限されます。また、天井裏や作りつけ収納部材の内部などの下地材にも、ホルムアルデヒド発散の度合いが少ない建材を用いるよう規定されました。さらに、シロアリ駆除剤、木材保存材として用いられるクロルピリホスを添加した建材については、使用が全面的に禁止されています。
ただし、家具に関しては建築基準法で規制することはできず、業界団体での指針にとどまっています。
シックハウス症候群の予防と対応策
シックハウス症候群を防ぐには、どのような方法があるのでしょうか。原因ごとの予防と対策について紹介しましょう。
空気汚染対策
室内空気汚染を軽減するには、部屋の換気をしっかりと行うことが重要です。
特に高気密・高断熱化が進んでいる現在の住宅では、窓などを開けて換気する自然換気だけでは不十分です。換気扇などを使った機械換気の整備が必須と考えましょう。有効なのは、24時間換気システムの導入です。
建築基準法でも、原則として住宅内の居室には、24時間換気システムのような「換気回数0.5回/h以上の機械換気設備」を設置することが義務づけられています。「換気回数0.5回/h」とは、部屋の空気の半分を1時間で入れ替えられるということです。
なお、換気システムには、吸気口と排気口ともに電動ファンを設置する第1種換気、給気口のみに電動ファンを設置する第2種換気、排気口のみに電動ファンを設置する第3種換気の3種類があります。第1種換気は、高断熱・高気密住宅でよく用いられている優れた性能を持つ方式で、最もコストがかかります。一般住宅では第3種換気がよく用いられており、コストも比較的抑えることができます。
■換気システムの種類
化学物質対策
化学物質によるシックハウス症候群を予防するには、リフォームを実施する際などにシックハウス対策が施された建材のみを使用することが考えられます。また、フローリングに無垢材を使用したり、壁に漆喰や珪藻土を使用したりするなど、自然素材を積極的に取り入れるという方法も検討しましょう。接着剤などが使用されていない自然素材は、化学物質を発散しません。
なお、古い住宅をリフォームするときは、壁紙をはがすことで接着剤などに含まれる化学物質が出てくることがあります。リフォーム工事終了後、室内を密閉して温度を上げ、化学物質を揮発させた後に換気を行う「ベークアウト」という処置もありますので、気になる人は実施を検討してみてください。
さらに、内装だけではなく、家具に使用されているホルムアルデヒドなどにも気を配りましょう。タンス、カーテン、カーペットなどの中にも化学物質を発散する物があります。
カビ・ダニ対策
カビやダニ対策としても、換気をして風通しを良くすることが有効です。また、寝具やカーペットなどは太陽光にあてて干し、よく乾かすようにしましょう。普段から室内に多く日差しが入る部屋ほど、カビやダニが発生しにくい傾向があります。
こまめな掃除も大切です。ダニやその死骸、ふんなどを排除し、食べ物のかすのようにダニのエサになる物も放置しないよう気をつけてください。
加えて、カビ対策として湿気や結露を防ぐ方法も考えましょう。壁・天井・床下などの断熱化、内窓の追加、外壁や屋根の断熱塗装などを行う断熱リフォームは、寒暖対策、エアコンの効率アップに加えて、カビの発生や結露を抑制する効果が期待できます。
生活で使っている物を見直す
シックハウス症候群対策には、普段の生活で使っている物の見直しも考えてみましょう。換気や掃除をこまめに行うことなどに加え、生活をする上で何気なく使っている物を見直すことも必要です。芳香剤や消臭剤のほか、洗剤、防虫剤などが、シックハウス症候群の原因・遠因になっていることもあるかもしれません。
さらに、床などに塗るワックスなどにも、化学物質を発する物、室内環境に影響する物があります。
また、暖房器具については、石油ファンヒーター、石油ストーブ、ガスストーブなどの、開放型暖房器具と呼ばれる物に注意しましょう。これらは、燃焼後の排気を室内に放出するため、部屋の空気が汚れることがあります。
室内での喫煙も問題です。かといって、マンションのベランダなどでの喫煙も、近隣世帯を含めて健康被害を与えてしまう可能性がありますので、避けるべきでしょう。
症状が改善しなければ医師に相談を
シックハウス症候群は、建材などから発散される化学物質のほか、カビ・ダニなどを含むハウスダストによる空気汚染によって引き起こされると考えられています。これを防止するために必要なのは、第一に換気です。特に、高断熱・高気密住宅に住んでいる場合は、24時間換気システムなどを備えるのが必須と考えましょう。
シックハウス症候群が疑われる場合は、何が原因なのかを考えてみて、化学物質対策やカビ・ダニ対策、生活の改善などに取り組んでください。ただし、症状が改善しないようであれば、すみやかに内科やアレルギー科、耳鼻咽喉科などを受診し、医師に相談してください。
監修者:髙野友樹
株式会社 髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。