マンションの災害リスクはどう調べる?チェックするべきポイント


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マンションを選ぶにあたって、住みやすさ以外にも真剣に考えたい災害リスク。火災、豪雨、地震などの災害に強いマンションかどうかは、時には生死を分けるポイントになります。
災害リスクをできるだけ減らすには、マンション選びの際に何を確認すべきなのか、株式会社髙野不動産コンサルティング代表取締役の髙野友樹さんに伺いました。

【プロフィール】髙野友樹
株式会社髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。

マンション火災のリスクとは?

――今回は、マンション選びをする際に、購入者が想定しておくべき災害について教えてください。よく挙げられるのは、火災、台風、豪雨やそれに伴う洪水、土砂災害、地震だと思います。まず、マンションで考えられる火災リスクには、どのようなものがあるのでしょうか?

高野:火災で脅威となるのは、基本的に火と煙です。火については、日本のマンションには炎上を拡大させないための設備が備わっています。例えば、11階建て以上のマンションには、消防法によってスプリンクラーの設置が義務づけられています。

――それは、どのような理由からなのでしょう?

高野:11階建て以上の高さには、はしご車が届かず消火活動が困難になるためです。スプリンクラー設備があれば、延焼をかなり抑えられます。

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――火は延焼を抑える対策があるとして、煙の危険性についても気になるところです。

高野:煙については、特に高層マンションでは注意しなければいけません。低層階で火災が発生すると、煙が上がってきて高層階に住む人は逃げ場がなくなってしまいます。そう考えると、基本的に低層階から中層階くらいのほうが火災リスクは少ないと思います。

河川氾濫・決壊による浸水のリスクとは?

――では、豪雨による浸水などのリスクはどうでしょうか?

高野:2019年は、台風による河川の氾濫や決壊が相次いだので、浸水や洪水などの水害についても心配される方が増えていますね。

浸水すると、停電するおそれがあります。2019年10月の台風19号(令和元年東日本台風)では、多摩川が決壊して周辺のマンションが浸水や停電などの被害を受けました。その停電の原因は、配電盤が地下に設置されていたためだといわれています。地下に電気設備があると、浸水でマンション全体が停電してしまうのです。

ですから、マンションを選ぶときは、配電盤がどこにあるかをチェックするべきでしょう。あるいは、根本的な対策として、浸水などが起きにくいエリアのマンションを選ぶべきですね。

――エリア選択には、自治体が用意しているハザードマップが役立ちそうです。

高野:そのとおりです。自然災害による被害が予測される地域では、基本的に自治体がハザードマップを用意しているので、チェックしてください。国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」でチェックすると便利です。市区町村の役所に行けば、無料で印刷物のハザードマップが手に入ります。

ハザードマップは、水害、土砂災害、津波、地震などの災害ごとに作成されていて、例えば水害なら浸水予想区域図といった被災が想定される区域が示されています。中には、避難先や避難経路を記した防災マップを作成している自治体もあります。

地震対策としてできること

――そして、やはり怖いのは地震です。マンションの場合は、建物自体の耐震性能が気になりますね。

高野:マンションの耐震性能は、耐震基準を必ず確認しておく必要があります。1981年に建築基準法が改正されて耐震基準が変更になり、旧耐震基準と新耐震基準という2つの耐震基準があることはご存じの方も多いと思います。

――新旧耐震基準の違いを教えていただけますか?

高野:旧耐震基準では、震度5程度の地震で倒壊・崩壊しなければいいという基準になっていました。一方、新耐震基準では、建物がほとんど損傷を受けないこととされています。つまり、旧耐震基準で建てられたマンションは、震度5程度の地震が起きたときに、何らかの損傷を受ける可能性があるということです。

最近では、震度5程度の地震というのは、それほど珍しくなくなっていますよね。旧耐震基準だと、大規模な地震が起きなかったとしても建物が損傷を重ねてしまい、危険な状態に陥る可能性も否定できません。

――震度6、7の大地震の場合はどうでしょう?

高野:新耐震基準では、震度6、7程度の大地震に対しても、倒壊・崩壊しない前提になっています。しかし、旧耐震基準では、震度5程度よりも大きい地震については定めがありません。万一のとき、旧耐震基準のマンションは、倒壊・崩壊する可能性も考えられるのです。

――1981年以前の旧耐震基準で建てられた中古マンションを購入するときは、注意が必要ですね。

高野:はい。ただし、築年数を確認する際に注意したいポイントがあります。建築基準法が改正された1981年以降に建てられていれば新耐震基準が適用されていると思われることもあるのですが、実はそうではありません。新耐震基準が適用されているのは、正確には「1981年6月1日以降に建築確認申請を受けた建物」になります。

――つまり、1982年に完成したマンションでも、旧耐震基準で建てられている可能性もあるということですね。

高野:大規模マンションであれば、着工から完成までに2、3年かかるケースも少なくありません。1981年6月1日以前に建築確認申請を受けていて、1982年や1983年に完成したマンションもあります。80年代半ばくらいまでに建てられたマンションを検討している方は、この点に十分注意されたほうがいいと思います。

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――ほかに、耐震性で気をつけることはありますか?

高野:耐震基準以外に、耐震等級も確認しておくべきだと思います。耐震等級は、2000年に住宅の品質を高める目的で制定された品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)にもとづいた基準です。
耐震等級1であれば新耐震基準を満たしており、耐震等級2は1の1.25倍、耐震等級3は1の1.5倍の耐震強度を持つことを意味します。

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――耐震等級2や3の物件は多く出回っているのでしょうか?

高野:耐震等級2や3のマンションは、物件数は多くないのですが、そういったマンションが選べるのであれば、より安心できるのは間違いありません。

また、管理がどれだけ徹底されているのかも、マンションの耐震性を左右する要素です。定期的な修繕が行われているか、今後の修繕計画がしっかり作られているか、過去に耐震補強工事をした形跡があるかといった点をチェックしておきたいですね。

定期的な外壁の塗装や、大規模修繕工事を含めた補修工事を怠っていると、壁のひび割れなどが発生し、建物自体の劣化も早まります。大きな地震の際に、建物の損傷や、場合によっては倒壊・崩壊につながることも考えられます。

――マンションの耐震基準や耐震等級、修繕履歴、修繕計画などは、何で確認すればいいのでしょうか?

高野:建物に関する情報は、物件を仲介する不動産会社に聞くといいでしょう。ただ、地盤の強さといったことについては、不動産会社は情報を持っていないこともあります。その場合は、「地盤サポートマップ」などのウェブサイトで調べてみてもいいかもしれませんね。

地震や津波に強いマンションを選ぶときの注意点 災害時の避難方法について

災害を想定したマンション選びとは?

――災害リスクを頭に入れながらマンションを選ぶときに、ほかにチェックしておくべきポイントはありますか?

高野:自分自身で確認するポイントとしては、先程挙げた配電盤の場所だけでなく、エントランスの位置も見ておいてください。エントランスが半地下のようになっていると浸水する可能性が高く、停電につながるおそれがあります。

また、マンションの形状も耐震性と関係があります。L字型やT字型のような形状より、シンプルな長方形のほうが地震に強く、変形しにくいといわれています。図面でも確認できますが、建物の状態確認も含めて、現地を自分の目で見て確かめるといいでしょう。

また、ピロティ形式のように1階部分の壁がなく、柱だけで支えているような構造のマンションも、一般的に耐震性が低いといわれています。ただ、ピロティ形式のマンションは、東日本大震災の際などは、津波による被害が少なかったという情報もあります。

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――不動産会社に確認すべきことは、ほかにどのようなことが挙げられるでしょうか?

高野:不動産の購入や賃貸借を行う際には、必ず宅地建物取引業者から重要事項の説明を受けますが、これには土砂災害や津波の警戒区域かどうかという説明も含まれています。ところが、浸水想定区域かどうかということについての説明義務はありません。そのため、2019年の台風19号による浸水のような被害に見舞われて、初めて浸水想定区域だったことを知るようなケースも出てきます。

そのようなこともあり、今は浸水想定区域について説明する業者も増えています。しかし、基本的には説明する義務はないので、ご自身で聞かれたほうがいいでしょう。または、浸水想定区域についても自分で調べたほうがいいかもしれません。川のそばでなくても、思わぬ所が指定区域になっていることがあります。

――大変参考になりました。災害リスクに対しては、不動産会社などから提供される情報だけをあてにするのではなく、自分自身でも調べることも大切だということですね。

高野:そうですね。災害リスクは、マンション選びの際に気をつけるべき、最も大切なポイントです。
まずは災害リスクを検討した上で、理想的な住空間を求めるのがいいのではないでしょうか。

災害リスクは自分でも積極的に調べる

災害リスクの検討は、マンション選びで最も大切なポイント。知らなかったと後悔する前に、しっかり検討しておきたいものです。
マンション選びの際は、業者任せにするのではなく、自分でも積極的に候補としているマンションの災害リスクについて調べてみましょう。

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