2016年に発生した熊本地震では、19棟のマンションが全壊と判定されています。今後、マンションの購入を検討される上で防災対策を意識する人も多いでしょう。それでは、防災対策を考慮した際、どのような点に着目してマンションを選べばいいのでしょうか。
ここでは、これからマンションを購入する人に向けて、過去の地震や津波で実際にマンションが受けた被害についてご紹介します。その上で、震災に備えたマンション選びのコツや、震災時の適切な避難方法をご紹介しますので、知識として備えておいてください。
マンションの地震による被害
過去の地震で、マンションはどのような被害を受けたのでしょうか。2016年の熊本地震では、70%以上の分譲マンションが被害を受けました。熊本市でのマンションは、3棟に1棟の割合で中程度以上の被害を受けています。熊本地震と同じく直下型であった阪神・淡路大震災においては、一部のマンションが倒壊し、大規模補修が必須となる大破レベルの被害がありました。
過去の大地震で、マンションが受けた具体的な被害は以下のとおりです。
・建物の傾斜、破損
・ひび割れや段差発生
・地盤沈下や変形による扉や窓の開閉不良
・コンクリートやタイルの剥落
・エレベーターや機械式車庫といった設備の故障
・給水管の損傷、漏水
・機器、機材の転倒
マンションの階数と立地により被害の大きさは異なる
マンションは、階数が高いほうが揺れによる被害が大きく、田舎より都会のほうが二次災害の被害を受けやすい傾向があります。
マンションの購入を検討される人の中には、防災面で階数や立地を気にする人もいるでしょう。ここでは、階数と立地に分けて地震が起きたときのマンションの被害を比較します。
マンションは高層階のほうが揺れる
損害保険料率算出機構が公表した「過去の地震による長周期地震動とその被害に関する調査」(2017年3月発行)よると、マンションでは、最上階・中間階・最下階によって揺れ幅が異なり、最上階に行くほどその揺れ幅が大きくなることがわかっています。同じマンションであっても、高層階は低層階より揺れが大きく、物が移動したり倒れたりするリスクが高くなる点で、被害は大きくなりやすいといえるでしょう。
また、同調査結果より、2011年3月11日の東日本大震災において、関東地域では5階建てのマンションより、超高層マンションの揺れが大きかったことが報告されました。
都心と地方のマンション、地震で危ないのはどっち?
都心と地方のマンションで、地震が起きたときに被害が大きくなりやすいのは都心のマンションです。
築年数が同じ場合、建物の耐震性の面では都心と地方のマンションに差はないでしょう。ただし、木造住宅の密集地帯で延焼が広がるなど、地震が起きたときに都心のほうが、被害が広がりやすい環境であることは確かです。
高層ビルが密集していない地方では、建物倒壊による被害は都心より少なくなるでしょう。また、逃げ道を確保しやすい点でも、地方のマンションは都心のマンションより安全性が高いといえます。
地震に強いマンション選びのコツ
地震のときに被害を受けにくいマンションを選ぶには、マンションに新耐震基準が適用されているかどうかを確認しましょう。また、マンションにどのような耐震構造が適用されているのかも把握しておけば安心です。
建物の耐震基準とは何かについて紹介します。また、旧耐震基準であるか新耐震基準であるかを見分ける方法のほか、マンションの耐震構造についてもご説明します。
耐震基準とは?
耐震基準とは建物を建築する際、建築が許可されるために満たさなければならない基準のひとつです。耐震基準を満たす建築物は地震によって崩壊しない、ある程度の耐震能力を持っていることが保証されます。
耐震基準は法律によって定められており、クリアしない建物を建築することは認められません。耐震基準を満たさない建物であるとわかると、建て替えを余儀なくされたり、建築主や工事業者が罰せられたりします。
新耐震基準の建物かどうかを確認する
マンションに新耐震基準が適用されているかどうかを知るには、そのマンションがいつ建築されたのかを確認するといいでしょう。
新耐震基準とは、地震に対する建築物の耐久構造の基準を示すもので、1981年の建築基準法施行令改正に伴い定められました。旧耐震基準の規定が「震度5強程度の地震では、ほとんど建築物が損傷しない」であるのに対し、新耐震基準では「震度6以上の地震に耐えられること」が基準となっています。
注意点として、1981年以降に建設されたマンションが、必ず新耐震基準の建物であるとは限らないということです。新耐震基準が適用されたかどうかは、建築確認申請が受理された日で判断します。
建築確認申請とは、施工業者が建築物を建築する際、着工する前に都道府県や市に必要な書類を提出し、「建築確認」の手続きを申込むことです。都道府県や市は、建築確認申請を受け、新耐震基準の適用などを条件に工事を許可します。
建築確認申請が受理された日が1981年以降である場合は、新耐震基準が適用されている確率が高くなります。通常、中古マンションの販売広告は築年数のみが表示され、「新耐震基準適用」と表記されているケースはほぼないでしょう。
マンションが新耐震基準の建物であるかを確認するには、マンションを設計した会社に問い合わせるのが確実です。設計会社がわからない場合は、不動産会社に問い合わせてみましょう。
耐震構造を確認する
マンションの耐震構造には大きく「耐震」「制震」「免震」の3種類あり、それぞれ構造形式や揺れの大きさが異なります。自身のマンションの耐震構造がどうなっているのか、購入前に把握しておきたいものです。
ここでは、マンションの耐震構造について、特徴をまとめました。
■建物の耐震構造の種類と特徴
耐震構造の種類 | 特徴 |
耐震 | 梁や柱などを頑丈に造って建物自体の強度を高め、大きな揺れでも倒壊しにくくした構造。建物の損傷は抑えられるが、揺れ自体を抑えることはできない。高層階では大きな揺れになる可能性がある。日本の住宅のほとんどはこの構造。 |
制震 | 「制震パネル」や「制震ダンパー」などの制震装置を組み込んで、地震の揺れを分散、減衰させる構造。地震エネルギーを吸収して揺れを小さくするので、超高層ビルでも高層階の揺れが大きくなりにくいのが特徴。 |
免震 | 建物と地盤のあいだに積層ゴムなどでできた「免震装置」を設置し、建物に揺れが伝わりにくくする構造。建物と地盤が分離されているため、地面が大きく揺れても建物全体の揺れを小さく抑えることができる。 |
購入するマンションの耐震構造を確認するには、まず物件情報をチェックしてみるといいでしょう。記載されていない場合、不動産会社または建築会社に問い合わせてみましょう。
マンションの津波による被害
マンションが受ける津波の被害とは、いったいどのようなものなのでしょうか。
東日本大震災では、宮城県の計16棟のマンションが津波による被害を受けました。気象庁の観測によると東日本大震災で最高の津波の高さは、岩手県大船渡市で16.7mと推定されています。これは、ビルの4〜5階の高さ相当です。特に、海に近いマンションが受けた被害は深刻なものでした。
3日間1階部分が水に浸かったり、電気等の設備に被害を受けたり、エレベーターや外構が水圧により損傷したり、管理員室の管理書類がすべて流されたという被害報告があります。
あるマンションでは、共用部分と専有部分の補修が終わり使用できる状態になるまで、約半年かかっています。
津波に強いマンション選びのコツ
海に近いマンションは眺望が良く人気ですが、津波の被害が大きいことを考えると、購入を躊躇してしまう人もいるでしょう。とはいえ、オーシャンビューは魅力的です。海に近いマンションを選ぶときのコツは、購入するマンションの地域が、防災対策をしっかり行っているか確認することです。
例えば神奈川県では、津波浸水想定を踏まえて、津波災害警戒区域の指定などを行うことで、津波防災地域づくりを推進しています。海の近くのマンションを選ぶ際は、自治体のウェブサイトを調べるなど、防災計画がきちんと行われているか確認するといいでしょう。
災害時の避難方法を確認する
自然災害が起きたときの避難方法や経路を、確認しておくことも重要です。
地震や津波の発生時、マンションからスムーズに避難する方法を紹介します。
地震からの避難
地震が起きたときにスムーズに避難するため、マンション購入時に地域の避難場所がどこであるのか確認しておきましょう。避難場所や避難経路は、自治体のウェブサイトや国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」で確認可能です。
10階以上の高層階では揺れが数分間続き、家具が転倒、落下また大きく移動することがあります。避難しようと無理に動かず、揺れが収まるまで待ちましょう。
揺れが収まったらまず、火災の危険がないかを確認してください。自宅で火災が起こらなくても、集合住宅では、ほかの住戸で火災が発生している場合もあります。警報などに注意し、危険があればすみやかに避難しましょう。
津波からの避難
津波から命を守るため、マンションからすぐ避難できる高い場所を確認しておきましょう。津波到達までは時間が限られていますので、遠くまで逃げるよりも近くの高い所へ避難することを優先してください。高層マンションは、地域の避難ビルに指定されている場合もあります。
海の近くでは強い揺れだけではなく、弱くても長い時間ゆっくりとした揺れを感じたときも注意が必要です。揺れを感じない遠方で地震が起こった場合にも、津波が発生する可能性があります。ニュースや地域の防災放送にも注意を払いましょう。
マンションの地震や津波対策は事前に調べ備えること
マンションを購入したいけれど地震や津波が不安な人は、対策として、耐震基準や地域の防災対策について事前に調べることが大切です。「マンションが新しい耐震基準を満たしているか」「地震対策のための構造を持っているか」「どの程度の津波が想定される地域なのか」「防災計画が策定されている地域なのか」など、購入前に調べておきましょう。
また、普段から防災意識を持って備えておくことで、災害が起きたときの被害や身の危険を、できる限り小さくすることができます。マンション購入前に防災対策として自分でできることを行い、万全にすればより満足のいく住宅購入となるでしょう。
監修者:髙野友樹
株式会社 髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。