マンション建替え円滑化法はどんな法律?概要や役割、改訂内容を解説


現在、老朽化して修繕による維持が困難な、建替えが必要とされるマンションが増加しています。
しかし、マンションを建て替えるには、高額な建築費や住民の合意が必要になり、建替えを検討したほうがいいと思われるマンションであっても、なかなか実施できないという問題点があります。この問題を受け、マンションの建替えをスムーズにするために定められたのが、「マンション建替え円滑化法」です。
ここでは、マンション建替え円滑化法がどのような法律であるのか、概要や役割をご紹介します。

マンション建替え円滑化法とは?

2002年に施行されたマンション建替え円滑化法は、マンションの建替えに際して法人格を持つ「マンション建替組合」を設立することや、耐震性が不足しているマンションを「要除却認定マンション」として、特別措置を設ける旨などを定めた法律です。

マンション建替え円滑化法は2014年、正式名を「マンションの建替えの円滑化等に関する法律」から、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律」とあらため、要除却認定マンションの条件が緩和されるなど、内容の改正がおこなわれました。
また、2020年6月には、「マンションの建替え等の円滑化に関する法律の一部を改正する法律案」が閣議決定され、要除却認定マンションの要件はさらに緩和されています。

マンション建替え円滑化法改正の背景にあるのは大震災

マンション建替え円滑化法改正の背景には、東日本大震災の被害があります。今後、発生が想定されている南海トラフ巨大地震や、首都直下型地震に備えた対策として、耐震性が不足している老朽化したマンションの建替えなどを早急におこなうことを目的に、マンション建替え円滑化法は改正されたのです。

マンション建替え円滑化法制定の目的はマンションの建替えを促すこと

マンション建替え円滑化法は、老朽化したマンションを再生することと、建替えを円滑に進めることを目的として制定されました。
建築後、長い年月が経過したマンションは、外壁の剥離や地震の際の倒壊といったリスクを抱えています。
そのため、危険性の高いマンションを要除却認定マンションに認定し、建替えが認可されるための要件を緩和したり、建替え後にマンションの階数を増やすなど、容積率の緩和を認めたりすることで、建替えを促進することがマンション建替え円滑化法の目的です。

老朽化マンションは今後も増加していく見込み

地区40年超のマンションの戸数

2020年、築40年以上のマンションは81.4万戸ですが、10年後には約2.4倍の198万戸、20年後には約4.5倍の367万戸にもなる見込みです。一方、同じく2020年4月の時点で建替えが完了となった、あるいは建替え実施中・準備中のマンションは295件となっており、老朽化したマンションの建替えの進行は、現状、かんばしくないことがわかるでしょう。
このことから、今後建替えを選択するマンションが急速に増加しない限り、老朽化マンションの数は増え続けていくと予想されます。

マンション建替え円滑化法の概要

マンション建替え円滑化法は、マンションの建替えがスムーズにおこなわれるための手続きや決まりを定めた法律です。マンション建替え円滑化法の、主な内容は下記のとおりです。

  • マンション建替組合に関する決まり
  • 権利変換に関する決まり
  • 除却する必要のあるマンションに関する決まり
  • マンション敷地売却事業に関する決まり

それぞれご紹介します。

マンション建替組合に関する決まり

マンション建替え円滑化法によって、マンションの建替えをおこなう際は、法人格を有するマンション建替組合を設立することが定められています。
マンション建替組合の組合員になるのは、マンションの建替えに賛成した人です。また、マンションを建設することになるデベロッパーも、マンション建替組合の組合員になることができます。

権利変換に関する決まり

マンションを建て替えるときは、そのマンションを取り壊した後、新しいマンションを建設するのが一般的ですが、建替え前のマンションを取り壊した後も、それぞれの組合員の区分所有権などを消滅させず、建替え後のマンションに移行する「権利変換」をおこなう必要があります。マンション建替え円滑化法によって、権利変換がスムーズにおこなわれるためのルールが定められています。

除却する必要のあるマンションに関する決まり

老朽化が進行したマンションは、震災時にリスクが大きくなる可能性が高くなります。マンション建替え円滑化法によって、耐震性のレベルなど、除去の対象となるマンションの条件が定められています。

マンション敷地売却事業に関する決まり

マンション建替え円滑化法によって、マンションの建替えではなく、敷地をデベロッパーなどに売却する選択をした場合は、「マンション敷地売却組合」を設立して売却をおこなうことと定められています。

2020年のマンション建替え円滑化法改正による変更点

2020年6月の改正では、マンション建替え円滑化法は、要除却認定の条件と敷地の売却についての内容が改正され、さらに「団地における敷地分割制度」の新設がおこなわれました。改訂内容と新設された制度についてご紹介します。

マンションの要除却認定の条件と敷地の売却について

マンション建替え円滑化法の改正により、要除却認定の対象となるマンションの条件が拡充されることとなりました。下記の条件のいずれかに該当するマンションが要除却認定の対象となります。

<要除却認定の対象となるマンションの条件>

  1. 耐震性に問題があるマンション
  2. 外壁の剥離等、周囲に危険を及ぼす可能性があるマンション
  3. 防災性に問題があるマンション
  4. 配管設備に損傷があり、危害を生ずるおそれがあるマンション
  5. バリアフリー性能が確保されていないマンション

上記に該当するマンションには、特例として建替え後に容積率の緩和を受けることができます。
また、1~4については、区分所有者の5分の4以上の同意を得ることで、敷地を売却することができます。

団地における敷地分割制度について

要除却認定

団地型のマンションの中には、敷地内の一部のマンションのみが要除却認定を受けるというケースがあります。そのような場合でも、スムーズに建替えや売却がおこなえるようにするために創設されたのが、団地における敷地分割制度です。
団地における敷地分割制度では、要除却認定を受けた物件を含む団地について、敷地共有者の5分の4以上の同意を得ることができれば、該当のマンションの敷地を分割して建替えや売却をおこなうことができるとしています。
これによって、敷地内の一部のマンションの建替えをおこなうことが可能となりました。

マンション建替え円滑化法と区分所有者の立場

マンションの建替えには莫大な費用がかかりますが、マンションによっては建替えに同意した区分所有者が負担する必要があります。また、建替えを実行するために、区分所有者は一時的に仮住まいに転居し、建替え完了後に再度引越しをしなければいけません。多少老朽化が進んでいても住み慣れた家にとどまりたいという希望から、建替えに反対する区分所有者もいるでしょう。

マンションの建替えに反対する区分所有者に対しては、マンション建替組合が売渡し請求をおこなうことになります。売渡し請求とは、建替え不参加者またはその承継人に対して、区分所有権および敷地利用権を売り渡すことを請求することです。
売渡し請求を受けた区分所有者が合意すれば、マンションの建替えをおこなえるようになります。ただし、頑強に売渡しを拒否された場合などには、裁判に発展してしまう可能性もあります。マンションの建替え実施には、金銭的な問題や法的な問題だけでなく、このような建替えに反対する区分所有者との合意形成という問題が存在しているのです。

マンション建替え円滑化法の改正で安全なマンションが増加する見込み

マンション建替え円滑化法は、震災時のリスクが大きい老朽化マンションが増加の一途をたどるという、深刻な問題を改善するための法律です。
マンション建替え円滑化法が改正されることで、老朽化したマンションの売却や建替えがおこないやすくなったといえます。震災時のリスクが大きいマンションが安全性の高いマンションに建て替えられていくことで、将来、マンション購入を前向きに検討する人が増加する可能性があるでしょう。

監修者:髙野友樹
株式会社 髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。

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