リノベーションの流行理由とその時代背景 現状と今後の市場拡大の展望を読む


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近年、リノベーションが流行した背景には、サステイナブルな社会づくりや国のバックアップなど、さまざまな要因があります。リノベーションは今後さらに人気となり、住宅購入の定番スタイルとして広まる見込みです。
ここでは、市場規模の拡大に目をつけた異業種の参入など、流行の実態と今後の展望をご紹介します。

リノベーションが流行した背景

人々のライフスタイルが多様化する中、自分らしい住まいを実現したいという人々のニーズを満たすリノベーションが人気です。ほかにも、さまざまな時代背景や社会情勢を受け、リノベーションは流行するようになりました。
まずは、リノベーションが人気となった背景を見ていきましょう。

サステイナブルな社会とリサイクル文化の影響

リノベーションが流行した背景に、サステイナブルな社会づくりと、リサイクル文化の浸透といった社会の風潮が挙げられます。
サステイナブル(sustainable)とは、「持続可能な」という意味です。古い物を壊して新しい物を建てるのではなく、古い物を活かした新しい暮らしを提案するリノベーションは、サステイナブルな社会やリサイクル文化を体現するための有効な手段であるといえるでしょう。

環境問題を配慮した省エネ住宅への関心の高まりから、現在の住宅の気密性・断熱性を高めるためにリノベーションをするというケースも少なくありません。
環境問題が深刻化する時代背景を受け、リノベーションの価値が上がったのです。

国のバックアップによる市場拡大

リノベーションが流行した理由として、国のバックアップによる市場拡大が挙げられます。2012年、国は「中古住宅・リフォームトータルプラン」をとりまとめました。このプランの目的は、リフォーム・リノベーション事業の質を向上させ、新築中心の住宅市場から、中古住宅が優勢な市場への転換を図ることです。

「中古住宅・リフォームトータルプラン」の概要と施策の内容は下記のとおりです。

<リフォームトータルプランの概要と施策内容>
・補助金などにより中古住宅のリフォームを支援する
・リノベーションの会社の認知度を向上させ消費者がリフォームしやすい環境を作る
・リフォームローンを充実させるよう金融機関に働きかける
・消費者が安心してリフォーム会社に依頼できるよう、住宅リフォーム事業者団体登録制度を創設する

新築市場が限界?中古市場優勢がリノベーションを後押し

リノベーションが流行した理由のひとつとして、新築住宅に比べ中古住宅の需要が高まったことが挙げられます。近年、発売戸数が伸び悩む新築住宅に比べ、中古住宅は人気です。2016年に中古マンションの成約戸数は新築マンションの成約戸数を初めて上回り、その後3年連続中古マンションが新築マンションより売れるという状況が続いています。

■マンション成約件数
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出典:株式会社不動産経済研究所「全国マンション市場動向」と公益財団法人東日本不動産流通機構「首都圏不動産流通市場の動向」をもとに作成

都心部の地価高騰、東京オリンピック・パラリンピックに伴う建築需要の拡大と建築費の高止まりによって、新築住宅の需要は下降中です。この20年で急増しているといわれる空き家の数を見ても、住宅産業の新築依存が限界にきていると予測できます。首都圏を中心に、長く日本に根づいてきた「住宅を買うなら新築」という新築至上主義から脱し、新築から中古へと購入対象がシフトしつつあるのです。それに伴い、中古住宅を購入してリノベーションする人が、以前より増えています。

低予算でスペックがいい住宅に住める

中古住宅を購入しリノベーションを施すことで、低予算でスペックが高い住まいを実現できることもリノベーションが人気の理由でしょう。

リノベーションなら設計やデザインの段階で希望を聞いてもらえるため、新築の建売住宅より自由度の高いデザインが可能なことや、新築より低コストで好立地に住宅を購入できる可能性が高いことなどから、リノベーション前提で中古住宅を探す人が増加中です。人気エリアや駅近で物件を探していて、新築の価格では手が出ないという場合も、リノベーションを前提として中古住宅を視野に入れれば、選択肢はぐっと広がるでしょう。

リノベーション業界への異業種参入

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近年、リノベーション事業の市場規模拡大に目をつけた異業種が、次々に参入しています。ここからは、異業種参入の現状と今後の展望について見ていきましょう。

市場規模拡大と異業種参入

リノベーションの市場規模は、2010年より6兆円台を維持しています。2020年の住宅リフォーム市場規模の推計値は、前年比4.5%増の6兆4,955億円でした(矢野経済研究所「2019年住宅リフォーム市場規模」2020年3月)。さまざまな異業種からの参入を受け、今後も市場はさらに活性化すると予測されます。

■住宅リフォーム市場規模(2020年は推計値)
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例えば、株式会社ベイクルーズのインテリアショップである「journal standard Furniture」は、2017年、施工実績が豊富なリノベる株式会社と提携し、リノベーションサービスをスタートさせています。
部屋の間取りや内装の仕様に合わせた家具コーディネートを提案し、両社の特徴を活かしたサービスを展開中です。
ほかにも、さまざまな企業が既存事業の特性を活かすことでサービスの差別化を図り、競争が激化するリノベーション業界に参入しています。

今後予測される異業種参入の展開

リノベーション業界への異業種参入における今後の展望として、大手企業の動向も顕著です。
例えば、建築材料・住宅設備機器業界最大手であるLIXILグループは、同グループのフランチャイズチェーン「LIXILリフォームショップ」の新ブランドとして、中古住宅の購入からリノベーションまでをワンストップでサポートする「さがすリノベーション」の稼働を2018年から本格化させました。

大掛かりな工事は扱わないまでも、保有する商材を活かしたリノベーションコーナーの設置などで潜在層にアプローチし、部分的なリフォームに対応する家電量販店やホームセンターといった小売業者も目立ちます。
ほかにも楽天株式会社は、「楽天市場」にてリフォームサービス「らくらく楽天リフォーム」の提供を2016年から開始しました。

インターネット上のリノベーションサービスは、今後、さまざまな業界からの参入を受け、リノベーション業界はさらに活性化していくでしょう。

海外で注目される日本のリノベーション技術

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日本のリノベーション技術は、海外でも注目されています。日本のリノベーション技術を武器に、リノベーション事業で海外進出を図る企業の動きは見逃せません。反対に、リフォーム技術が発展途上にあるアジアなどの国の業者が、日本のリノベーション技術を学びに来る動きにも着目すべきでしょう。

ここからは、日本のリノベーション業界と海外とのつながりについて解説します。

リノベーション事業で海外進出を図る企業

リノベーション事業によって海外進出を図るメリットとして、海外のリノベーション事業やリフォーム産業は、国内に比べて資格や文化の面で参入障壁が低いことです。
また、東南アジアには、新築戸建・新築マンションなど、内装を仕上げずに引き渡しをするのが一般的な国もあります。そこで、細やかな内装リフォームの技術を持つ日本企業の出番となるのです。
日本のリノベーション技術は海外でも需要が高く、今後も工務店や設計事務所、ハウスメーカーなどによる海外進出の動きは活発化するでしょう。

海外から日本のリノベーション技術を学びに

海外から、日本のリノベーション技術を学びに来る動きもあります。リノベーションを手掛ける会社の中には、海外留学生を受け入れ施工技術を教えるなど、積極的な取り組みを行うところも多いです。日本の優れた建築技術やリノベーション技術は海外でも高く評価され、これからも広く流通するでしょう。

リノベーションは流行から定番へ

人々のライフスタイルの変化と社会情勢の変化に合わせて、リノベーションは定着しています。今後も人々の生活に対する価値観は多様化し、国のバックアップを受けて市場はさらに拡大し、リノベーション事業は活性化するでしょう。そして、リノベーション業界の競争は激しくなり、サービスの品質は向上していく見込みです。
近い将来、「中古住宅を購入してリノベーション」「リノベーションを前提に中古住宅を探す」という選択肢は、住宅購入の流行ではなく常識として定着するかもしれません。

監修者:髙野友樹
株式会社 髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。

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