中古マンションを購入する際、必要になるのが手付金の支払いです。ただ、頭金や申込金との違いがわからず、何のためのお金なのかしっかり理解できていない人もいるかもしれません。
ここでは、手付金とは何のためのお金なのか、中古マンションの購入契約ができなかった場合はどうなるのかについて解説します。
中古マンション購入における手付金の役割は?
中古マンションを購入する際、手付金との違いがわかりにくい費用として、申込金や頭金があります。まずはこれらの費用の違いと、手付金の額について解説します。
手付金と申込金、頭金の違い
手付金とは、不動産売買の契約を結ぶタイミングで、買主から売主に支払われるお金のことです。手付金の受け渡しがおこなわれた時点で、売買契約が成立します。
頭金は、住宅ローンの借入れ以外で購入にあてるお金で、手付金はその一部として契約内容に組み込まれます。
手付金の受け渡し後も契約の解除は可能ですが、解除の原因が売主側にある場合は、売主が手付金の倍額を買主に返還し、買主側にある場合は買主に手付金は戻ってきません。手付金は契約の不履行や解除があった場合に発生する、損害に備える意味もあるのです。
なお、手付金受け渡し後の契約解除ができる期間は決まっています。手付解除期間が定められていればその期間内、定められていなければ売主・買主のどちらかが契約履行に着手するまでとなります。契約履行に着手することの具体例としては、売主が買主の希望に沿った内装工事をおこなったり、買主が手付金を支払ったマンションへの引越しを前提として引越し業者と契約したりといった行為が挙げられます。
申込金も同じように買主から売主に支払うお金ですが、これは物件の購入を決めて申込みをする際に支払うお金で、物件を購入する意思を表明するためのものです。申込金を支払っただけでは、まだ売買契約は成立していません。物件を購入することになれば購入代金に充当され、契約までのあいだに購入を撤回した場合は、全額買主に返還されます。
手付金の金額はどうやって決まる?
中古マンションの場合、手付金の額は物件価格の5~10%程度が相場といわれています。しかし、決まりがあるわけではなく、買主と売主の合意によって決まるものなので、値引き交渉をおこなうことも可能です。
手付金はその性質上、ローンに組み込むことはできないため、現金で用意しなければいけません。物件価格が高いと手付金の負担も大きくなりますので、値下げを希望する場合は、不動産会社と交渉してみましょう。
手付金の種類
契約の不履行や解除があった場合に発生する損害に備えるという意味を持つ手付金は、大きく次の3つに分けられます。
- 解約手付
- 違約手付
- 証約手付
手付金それぞれの種類についてご紹介しましょう。
解約手付
解約手付とは、売買契約を解約する権利を保障する手付金のことです。中古マンションの売買をはじめ、不動産売買の契約時に支払われる手付金は、基本的にこれにあたります。売買契約成立後、契約解除が可能な期間内であれば、売主からは手付金を倍にして買主に返還することで、買主からは支払った手付金を手放すことで契約を解除できます。
違約手付
違約手付とは、契約の当事者が契約内容に違反したとき、契約違反のペナルティとして没収できる手付金のことです。売買契約成立後、売主に契約違反があった場合は、売主は手付金を倍にして買主に返還しなければならず、買主に契約違反があった場合は、手付金は戻ってきません。
証約手付
証約手付とは、売買契約が成立したことを証明する意味で受け渡される手付金です。売買契約にはいくつかの段階があることが多く、この手付金を支払うことで契約成立の証明になります。
こんな場合、中古マンションの手付金はどうなる?
手付金を支払った後に起こりうることは、契約解除だけではありません。ローン審査に落ちることもありますし、不動産会社が倒産する可能性もあります。そうなった場合の手付金の扱いについて解説します。
手付金支払い後に契約解除した場合
手付金を支払った後、買主から契約を解除した場合は、手付金は返還されず売主のものになります。逆にいうと、買主の負担となるのは手付金だけで、損害賠償などを請求されることはありません。
なお、前述のとおり、契約履行の着手があったとみなされる場合、買主からの契約解除はできません。
ローンの審査に落ちた場合
ローンの審査に落ちて物件の購入ができなくなってしまった場合、売買契約にローン特約を盛り込んでいれば、契約を解除して手付金も全額返還してもらえます。ただし、ローン審査時に虚偽の記載をするなど、故意にローン審査を不利にするようなことをした場合は契約違反となり、手付金は返してもらえません。故意に住宅ローンの手続きをしない場合も、契約違反となります。
不動産会社が倒産した場合
宅地建物取引業法により、不動産会社は自身が売主となる中古マンションの売買について、買主から1,000万円かつ売買価格の10%を超える手付金を受け取る場合は、保全措置をとることが義務づけられています。
これに該当する場合は、手付金を支払った後に不動産会社が倒産しても、保証会社などから全額返還してもらえます。
■手付金保全措置の仕組み
中古マンションの手付金の保全措置とは?
不動産会社が倒産した場合に備える保全措置とは、買主が支払った手付金を保証するものです。手付金を支払った後、不動産会社が倒産した場合でも、買主に不利益が及ばないように、宅地建物取引業法の規定によって保全措置が設けられています。最後に、手付金の保全措置について解説します。
保全措置がとられる条件
中古マンションの売買において、不動産会社に保全措置をおこなう義務があるのは、下記の3つの条件をすべて満たす場合です。
- 売主が不動産会社、買主が不動産会社以外
- 不動産の所有権移転登記が完了していない
- 手付金が売買代金の10%を超えており、かつ1,000万円以上
保全措置がとられると、保証証書や保険証券などが不動産会社から買主に送られます。これにより、万が一、不動産会社が倒産しても、買主は保険会社などから手付金の返還を受けることができます。
保全措置がなされないケース
前述の3つの条件にあてはまらない場合は、不動産会社に保全措置をとる法律上の義務はありません。
例えば、物件価格2,000万円のマンションの手付金が10%を超える場合は保全の対象になりますが、8%の場合は対象になりません。ただし、対象とならない場合でも、任意で保全措置を求めることは可能です。
手付金の役割を正しく知ることが安心につながる
手付金は、中古マンションを購入するにあたって、必ず支払うことになるものです。途中で契約解除になる可能性もありますので、手付金の役割を知っておいたほうがいいでしょう。手付金支払い後にローンの審査に落ちたり、不動産会社が倒産したりすることも考えられます。
そうなった場合の手付金の扱いを知っておき、あらかじめ備えておくことで回避できる損失もあるはずです。契約にあたっては、手付金についても確認するようにしてください。
監修者:髙野友樹
株式会社 髙野不動産コンサルティング代表取締役。公認不動産コンサルティングマスター、宅地建物取引士。不動産会社にて仲介、収益物件管理に携わった後、国内不動産ファンドにてAM事業部マネージャーとして勤務。2014年、株式会社髙野不動産コンサルティングを創業。